最後は手仕事。どんな大きなものでも人の手がないとできない
「設計を本気でやりたい同級生にかなわない」
そんな彼女が進んだ道は、変わらず建築業界でした。
ものづくりの最前線に携わることに喜びを感じる阿沙子さんの今、
そして今後の展望について伺いました…。
お姉様のお仕事についてお聞きします。北海道から関西へ行って、大変だったのでは?
当社は新入社員の1年間、寮で集団生活をするんです。2人1組の相部屋生活が嫌だという同期もいましたが、私は寄宿生活を経験していたこともあり抵抗はなく…。ここでも藤のありがたみを感じましたね。それに、100人以上の同期と一緒に暮らしているので、帰ってきたら誰かと話ができる環境がいつもあって、淋しさや不安はあまり感じませんでした。むしろ、今まで以上に色々なタイプの人と出会い、週末も何かとイベントを開催して、自分も新しい世界を知ることができて、楽しかったです。
竹中工務店、ゼネコン最大手のひとつですね。どのような業務を担当しているんですか?
どっちかというと現場の方で、現場監督をしたりだとか。今は内勤で、デスクワークなんですけど。まあ設計とはちょっと違う分野にいますが、それでも設計をする人と話をする機会は多くあります。
図面を具現化する側にいる、ということですね。
もうほんっとに作っている側ですね。ものづくりの最前線です。
暖炉の大きめなものを作っているんですね。
当時はミニチュアで喜んでましたけどね。今は大分大きいものを作っちゃってますね。
ちなみに今までで一番大きいのは?
入社して一番最初に行った現場が、グランフロント大阪という、大阪中心部の大規模再開発の現場に配属されて。もちろん私はその中のこのくらい(と、小さくジェスチャーで示す)ですけど。でも、そこに自分が関わったのが嬉しかったし、すごく印象に残っていますね。
(名刺を見ながら)この、「見積部」というのは?
3年前から配属されている部署です。図面をもとに「このビルおいくら」と建物の金額を見積る部署です。
部署の希望はとるんですか?
私の場合は生産系と呼ばれる、現場監督や見積・購買・工事計画の担当部署などの中で希望も踏まえた異動があります。
仕事のやりがいは?
やっぱり大きい…これ、私の新入社員時代の、同期ととった写真なんですが…。
すごい!オール男子で、真ん中に一人女性が…。
大事にしてもらっているわけじゃないですけど(笑)。
これが先ほどのお話ででてきた、梅田の再開発ですか。
そうです。
すばらしいですね!
こんな感じの職場にいて。作ったものが形になる。この現場にいたのは最初の研修で4か月くらいだけだったんですけど、自分が関わった部分は本当にちっぽけなものだったんですけど。でもすごいなって。
形にするには、職人のみなさんの力が必要になりますよね。
17、8歳くらいの人から、50代のベテランの方まで。鳶さんのベテランの方に、指示を出さなきゃいけない立場なので、「何も知らなかったらなめられるな」って構えた時もあります。でも話してみたらすごいフランクでいい人だったり。最初は見た目がいかつくて、怖かったけど、話してみたら、実は根の優しいいいおっちゃんだったりとか。色んな人と現場で出会いましたね。
クレーンだったり、大きい重機を使って作るんですけど、やっぱり最後は手仕事なんですよね。そのことが、実際自分が実務をやりはじめてものすごく印象に残りました。「人の手がないとできないんだ」って。
私たちは手を動かす立場ではなく工事全体のスケジュールや安全管理を行う現場監督ですが、何千人、何万人という方が体張って作っています。
色々な人が関わって1つのものができているわけですよね。
もう本当に、数えきれないくらいの人が関わっていますね。
これからもこの仕事を?
そうですね。わたしもまだまだこの中では若手で、わからないことばっかりなので。
やってみたいことはありますか?海外赴任だとか。
う~ん。機会があれば海外も行きたいな、とは思いますけどあまり具体的には決まっていないですね。まだまだ知らないことも多く試行錯誤の連続で。そんな中で後輩指導もしなければならないですし、できることを着実に一つずつ進めていっている感じです。ただ、現場をいくつかやりましたけど、やっぱり自分が現場を仕切れるまでには全然いっていないので、もっと自分の知識も磨いて…。まだこの業界にはほとんどいませんが、現場の所長が務まるようになるまでがんばってみたい気持ちもあります。
第2回の「レディに質問!」に出ていただいた二木さんとは確か…。
あ、同期です!
今、ジャマイカにいらっしゃるんですが。
そうなんですか!確かに、海外を飛び回っているイメージが…。
「月刊ふじ」に「ジャマイカからの手紙」という連載を持ってもらっているんです。その中で、ジャマイカは男女平等が進んでいて日本はまだまだ、という趣旨の記事があって。私たちはイメージだけで日本の方が中南米より進んでいると思いがちですが、違うんですよね。
私も会社に入って、こういう業界で、「女性活躍」と声高に言うんですけど、私から見るとすごく遅れているって思いますね。
女子校が増えたらいいんでしょうか。
(笑)そういうことですかね。こうやって伸び伸びした人間が増えるかもしれないですね。「1歩下がって」ではない人間が。
私は共学出身ですが、生徒会長、合唱コンの指揮者・伴奏者、議長…役職に就くのは男子が多かったですね。女子は「書記」。字を書くのだけは女子、という…。
その時からステレオタイプが形成されていって…。
思えば、学校の中で女子が「仕切る」ポストが廻ってくる回数は少なかったかもしれません。
じゃあ、共学って全然男女平等じゃないじゃないですか。
今はもう違うのかな、と思っていたら、先日ある方が、「うちの娘の小学校で、ある女の子がグループリーダーに推薦されたんですが、先生が『だめだ、男子から選びなさい』というんです…」って残念そうに教えてくださって…。
女子校6年間過ごしたら、そんな意識はまったくなくなります。生徒会長は女子がやるし、学祭だって大きな屋台を女子が運んで。
所長になったら、またインタビューさせてください(笑)。
是非(笑)。
(竹中工務店のHPを見ながら)「寮長・寮生座談会」で、寮長側で登場していますね。
入社4年目で新入社員と一緒に寮に住み込む先輩役の「寮長」になったんですが、女性の寮長は珍しいですね。約200人の後輩と他3人の寮長と一緒の1年でした。自分が新入社員だった頃と立場が変わり、後輩たちが業務でもオフの時間でも環境になじめるよう、常にアンテナを張っていた気がします。この時に、後輩を育てることで自分も成長するんだと気付けたし、直接的にも間接的にも、何百人という方々と知り合うことができました。
すでに、素晴らしい活躍です!最後に、在校生に対してメッセージをお願いします。
卒業してからわかる素晴らしさがいっぱいあると思いますね。制服だったり、校則だったり。そのありがたみが、大学生になり、社会に出てから、こんな親身に接してくれる学校めったにないんじゃないかなって気がつきます。本当に私も卒業してみて、改めてよかったなあって思いますね。
校則に縛られていると感じることもあるかもしれませんが、中1から高3って、「青春」ができる本当に楽しい6年間なので、存分に楽しんでほしいです。縮こまらずにやりたいことをやってほしいなと思います。
姉妹で通って、親御さんは何といっていますか?
あんまり口に出してはっきり言うタイプではないんですが、よかったと思ってくれていると思います。私が6年間通って、妹がまた来たので、そういう意味では親も藤のことを信頼しているんだと思います。
ありがとうございました!
撮影場所:北海道大学 インフォメーションセンター「エルムの森」
インタビュアー/新山 晃子
カメラ/中村 祐弘
編集/松永 大輔
デザイン/清水 麻美