進路について OGの活躍
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ピアニスト 神吉ひかる 第3話トップ
第3話

嫌だって思うのと、楽しいって思うのって、紙一重

ドイツへの進学、海外での暮らし、語学習得のための学習…。
ひとりで努力を続けた日々を支えてくれたのは、ピアノでした。
優秀な成績で学位課程を卒業し、現在は修士課程で研鑽を積む毎日。
神吉さんが目指す、音楽とは…?

大学在学中に出場した、コンクールについて教えて下さい。

私はヨーロッパの国際コンクールしか受けていませんが、アジアにもアメリカにも、今コンクールは大中小色んな規模のものが世界中に山ほどあります。

コンクール風景

勝てそうなところに狙いを定めていくのですか?

人それぞれです。レパートリー増やすのに、「目標があったほうが」っていう人もいるし。人それぞれ特化しているものがあるので、それに合わせて行く人も。規模の小さいものからはじめて、レパートリーを増やして場数を踏んで、だんだん大きいものに挑戦する人が多いです。あと、人に演奏を聞いてもらえる機会なので、その機会を少しでも多く得るために受ける。審査員に著名なピアニストや教授がいることも多いので、そういう人達から貴重なアドバイスをもらうことができます。参加者同士で人間関係も広がります。

特化とは?ベートーベンが得意とか、超絶技巧が得意とかでしょうか?

そうそうそう。

神吉さんの「特化」は?

バッハ、シューベルト、シューマン、いわゆる「ドイツもの」はコンクールでもコンサートでも、いつもプログラムに入っています。後は、音色、音質を褒められることが多いです。自分の中ですごく大事にしている部分なので、素直に嬉しいです。
わたしは手も大きくないしあまり開かない方で、体も大きくないので、超絶技巧とかガチャガチャ…っていうのは苦手です。パフォーマンス性があって栄えるのですが、あまり興味も湧かなくて。特にバッハは大好きで、小さい頃から。バッハコンクールにも行って。2年目の終わりで行ったときは、それがはじめて大きいコンクールで。セミファイナル…ってわかりますか?1から4次まであって。3次までいって、6人。

2年目でそこまでいったんですね!

でも、それがいちばんうまくいって。それ以降はあまり…。

ビギナーズラックみたいな。でも、慣れれば慣れるほど…。

そう!優勝した人が次大きいコンクール出てどうかといったら、わかんない。そして、当たり前ですが、コンクールで成功したからといってその先の音楽家としての人生は保証されないんです。

慣れればいいってものじゃないし、フレッシュ過ぎても…。

今の方が、本番あがるの、こわいです。

ほんとに?!

一時期ほんとに怖くて、できれば逃げたいって思って(笑)
緊張とはちょっとちがって、「怖い」んです。

手が冷たくなって、ふるえる、とかではないのですね。

弾けるし、準備もできてるし、…なんだけど、やればやるほど、ピアノが好きだし、曲が好きだし、リスペクトもあがっていくし、自分に対するハードルもあがっていくから、なんか、「わ~~~」となって。

この状況の、突破口は?

最近は別に怖いままの方が良い気がして。怖いと思えるおかげで、毎回気が抜けない、真剣勝負です。それに、怖いけれど幸せな瞬間も本番中沢山あって。お客さんと音楽を通してコミュニケーションするというか、目には見えないけれど耳と心と体で音楽を共有するというか。

ピアノ、好きなんですね。

「好きだ」っていう気持ちを忘れないように、意識して。中高のときもピアノは好きだったけど、どれだけ好きか、その道で行くくらい好きなのか?ってよくわからなくて。今の方がピアノが好きです。「あ~、いい楽器だな」ってすごく思う。今まで師事してきた先生方のおかげです。

ピアノを弾く以外、どんなことをして過ごしていますか?

よくお菓子を焼きます。クッキーとかマフィンとか。抹茶味は日本の友人達はもちろん、外国の友人にも凄く喜ばれます。“Matchaaa!!!” て。あと、学校の裏の森でランニングしたり、剣道したり…。

剣道?!

小学校6年間、剣道もやってたんですよ。中高で剣道部に憧れていたし、「北大行ったら剣道部入りたい」と思ってたんですよ。でも何も実現せず…。「あ、今やればいいんじゃない?」って、ふと思って。そしたらあったんですよ、こっちにも道場が。

有段者?

…の手前(笑)。初段を目指してます。でもコンクールの本番があったり、手の負担になるのを避けたりしていると、なかなか…。

現在大学院に通っていますが、2年で修了する予定ですか?

修士の資格を他の分野でもとれるので…考え中です。ソロの課程ももう一個上があって。国家資格みたいなのがドイツにあって。ほとんど機能していないんですけど(笑)

大学の友人関係を教えてください。

ピアノ科はアジア人が多くて、特に中国、韓国、台湾。あとはドイツ、ウクライナ、インドネシア、ルーマニア、ポルトガル、イラン、日本人もいます。ロシア語圏からの学生も多いです。…幅広い。

友達が出来なくて困った、とかはないですか?

あんまり…ないですね。

ドイツにて

ライバルではないんですか?

わたしの先生がみんなにリスペクトを持っていて、みんなの個性を大事にしてくれるし、みんなに同じように接してくれます。うちの大学のピアノ科は有名でレベルも高いので、ライバル心が強い大学だって、外部からくる子はよく言っているし、私自身実感することも多々あります。ですが、それを意識するかしないかは人それぞれかなと。私は気にしないし、気にしないようにしています。みんな同じ音楽の世界で生きていく仲間だし、人それぞれ良さがあり、個性がある。だから、高め合っていく同志であっても、羨ましがったり嫉妬したりする敵みたいに思うのは残念だなと。

「海外留学/進学したい」という生徒に対して、アドバイスをお願いします。

結局やることは一緒なんです。勉強するし、練習するし。「留学したらピアノがうまくなる」とは限らないし、考えてる子に、心から勧められるかっていったら、大変なこともいっぱいあるし。すぐ海外に出てしまうと、日本での人脈や拠点はなかなか作れないし、日本の学歴もありません。言ってしまえば不安要素、心配事だらけです(笑)。
でも、もし自分の極めたいもの、学びたいものの最先端が海外にあるなら、出た方がいい。少なくとも私は全く後悔していないし、これからも頑張るのみ。…と言っても、私も多分本当の意味で腹くくったのは北大落ちてからかな(笑)。あと、留学ときいてすぐ、高いお金がかかると思うのは間違いです。国にもよりますが、例えばハノーファーは学費がタダです。

タダなんですか?!

はい。施設費用で一学期ごとに5万円ほどかかりますが。学生として生活するには本当にお金がかかりません。

どんな人が向いていると思いますか?

人を見て行動している人は、多分、自分を失います。だから、ちゃんと自分がやりたいというものがある人が、やっていけます。

ポートレート

ピアノをやっている子どもたちに対して、メッセージをお願いします。

私 1 回だけあるんです、小学生の時にドイツで「わたしピアノ嫌いになったから、やりたくない」。そうしたら父から「じゃあ、あと1回嫌だと思うまでやりなさい。もう一回思ったら、辞めていいから」って言われて…。今に至ります(笑)。嫌だって思うのと、楽しいって思うのって、紙一重です。だから、「もう一歩続けてくれたら、楽しいに裏返るかも」って。別に、みんな好きでいて欲しいって思わないし、嫌いになってまで続ける必要はないけれど、楽しいって思える瞬間が少しでもある限り、続けてほしいなと思います。自分でいうのも何ですけど、「弾ける」って財産だと思うんです。私の小学校の時のピアノの先生が、「音楽やっている人が増えたら、世界ってもう少し平和になるんじゃないかと思って本気でピアノを教えてる」って言っていて、多分小3とか小4の頃で、わたしすっごい感動して。別に世界平和を目標にピアノを弾いていないんですけど、少しでもそういうことにわたしもいつか貢献できるようになりたいな~とは、やはり思っています。


撮影場所:奥井理ギャラリー
インタビュアー・ライター/新山 晃子
カメラ/中村 祐弘
編集/松永 大輔