進路について OGの活躍
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客室乗務員 友成姫佳 第3話トップ
第3話

宗教が違っても、同じところで泣くし、同じところで感動する

留学経験もないまま、突然の海外暮らし。
22歳にして、カタール国での勤務がはじまりました。
外資系の会社は?ドーハでの生活は?
彼女の「今」をたずねました…。

5月にドーハへ。人生初の中東ですか?

そうです。人生初の中東。海外もオーストラリア、カナダ以来の海外。

カナダは藤で、オーストラリアは?

幼稚園の時に家族で。

では、家族旅行と、藤の海外研修だけ…。

だけです(笑)

必ず用意しなければいけないものは何でしたか?

パスポートとEチケット、ビジネススーツですね。

「これだけは日本から持っていこう」と思ったものはなんですか?

色んな方がエールを書いてくださった色紙。あと、カフェでアルバイトをしていたんですが、その仲間がとてもあたたかくて。シフト中忙しい合間を縫ってエプロンに飛行機のワッペンをつけてそこにメッセージを書いてくれて。それを持っていったり。
あと、藤の卒業アルバムそのものは持っていかなかったのですが、うしろのページに先生方からメッセージをいただいていたのを携帯で撮って大切にしています。瀬戸先生同様尊敬する英語の木村計三先生が「逞しく生きてください」と書いてくださったのもよく眺めていました。渡航して最初の1,2年は慣れるまでつらかったので。

友成さんの未来を予知したようなメッセージですね。

この言葉のおかげで、「やっぱり日本で生活するほうが楽だから帰ろう」というのは「恥ずかしいな」「悔しいな」と思って。負けず嫌いなところがここではプラスに働きましたね。
さっきも職員室で瀬戸先生にご挨拶したときに、「貴方は結構繊細だったから、外資のCAなんて続くかなってちょっと思ってたのよ」って言われちゃいました。実は在学中、よく泣いていたんです。学内の英語暗唱大会で結果が出なくて悔し泣き、せっかく学外の弁論大会に出させていただいたのにもっと結果がでなくてまた泣き。しかも人前でも我慢できずにポロポロ涙を流してしまう。

訓練中、泣いたりしたんですか?

試験はとても簡単に感じました。
教官はユーモアたっぷりにジョークを交えながらプレゼンテーションしてくれますし、筆記も日本の受験勉強から比べたら入社時の英語試験も入社後のトレーニング中のテストもかなりシンプル。多国籍な20人のバッチメイト(同期)の中で、「日本人はクラスで全然発言しないけれどテストはバッチリよね。あと暗算が凄く早い!」と教官から言われることが多かったです。

では訓練中苦労したことは?

英語のジョークに気がつかなくて周りと一緒に笑えないのには今でも苦労していますね。私もまだまだネイティブには到底敵わない英語力なので、日々勉強。教官も全員元クルーなので接客人=エンターテイナーで、セイフティの訓練中でさえ笑わせてくれるんですよね。
日本ではどうしてもアメリカ英語をスタンダードとして勉強していたのだと思います。でも弊社は世界150都市以上に就航していて、お客様や同僚の話す英語にもそれだけ音の特徴に違いがあります。「アメリカ英語がすべてじゃないし、どこの英語が正しい発音かというのは誰にも決められないのだ」「音よりもさきに先に伝えたい情報・内容があって、それを言葉を選んで正しく伝え合う道具として使いこなせる力の方が、どんなに美しい英語を話すかよりも大事だ」ということを、暗唱大会や弁論大会の時に英会話のニール先生や、瀬戸先生には伺っていました。でもあの時はミーハーで、何としても美しいアメリカ英語の発音を習得したい!って思っていたんでしょうね。

筆記より、第2言語として英語を使っている人たちとのコミュニケーションの方が大変だったということでしょうか。

そうですね。「それは英語じゃないよ!」から「それも英語なの?」に変わり、「私が触れてきた英語と先方が使ってきた英語の特徴が少し違っただけ」というところまで広がりました。
今は「分かり合えればいいか」っとかなりゆるいところまで来てしまって、時々危機感を覚えることも。でも英語に限らず、自分のスタンダードを相手に押し付けるのではなく、お互いに譲り合って歩み寄って対話することの大切さをこんなところから学んでいる気がします。

ちなみにどこの英語が難しいですか?

タイ、マレーシア、シンガポール…などは耳が慣れるまでに時間がかかりました。
フィリピン人は全て発音してくれるのでかなり聞きやすく、インド人の上司が多いもので自然とこのエリアは得意です(笑)

同じ会社の方とドーハでハイティー
同じ会社の方とドーハでハイティー

向こうでは、社宅のようなものが用意されているんですか?

はい。未婚のクルーは全員社員寮でルームシェアです。今も入社以来同じタイ人と2人でルームシェアしています。お互い飛んでいるのでなかなか会いませんが。

今も社宅に住んでいるのですか?

はい、そうです。クルーは今1万人ほどいて、そのほとんどが社宅に住んでいるはずです。なので同じ市にかなりの数の弊社の社宅があるはずです。ジムとプール付で、制服を無料でクリーニングしてくれるランドリーがあります。

社員のための、福利厚生の施設が充実していますね。

そうですね。日本だったら、今と同じ生活は私の今の力量ではさせて頂けないだろうな、と思います。それでどんなに日本が恋しくなったり、砂漠が辛くても辞められないのかもしれません。
あと外資の航空会社のいいところって、靴も鞄も仕事中に身に着けるもの全て支給されるんですよ。

すばらしい!契約で「あなたに働いてもらってるから、仕事でかかるものはこっちで負担します」となるわけですね。

そうだと思います。だから靴も半年に1回、機内用のフラットシューズと外で履くヒールのシューズを替えてくれますし、制服もスカート2枚、パンツ2枚、ジャケット3枚、中のブラウス5~6枚かな、あと機内でシートベルトサインが消えてから着るエプロンジャケットが3枚、ネームバッチなどのピン…全部会社が準備するので、楽ですね。

日本だと「自腹を切る」ということが社会人になってから至る所であるんですよ。

そうですよね。日系の航空会社だと、靴や鞄も自分で用意すると言ってました。凄いですよね。

そういう感覚は、向こうにはないということですよね。

そうですね。先輩が後輩にご馳走する、というような感覚も日本ほどはないのかなぁ、なんて感じます。

外資のように、もう少し日本人も「契約」の文化みたいなものに慣れるといいかもしれませんね。

そうですね。業務外だったら「これは私の仕事じゃない」ってはっきり言葉に出しますし。フライト後にIDを「ピッ」と切ったらあとはもうOff Dutyです。日本人クルーには「お疲れ様です!またよろしくお願いします!」と言ったり、”Thank you guys, see you around !” でさらっとその日は業務終了です。よっぽどの事件が起こらない限り反省ミーティングもありませんし、フライト先で皆でご飯、なんてことも稀ですね。それぞれ個々人の自由時間です。

ドーハライフを教えてください。

私は結構満喫していますよ!フライト後はずっと寝ていて部屋から一歩もでないなんて日も頻繁にありますけれど(笑)。ドーハにも日本人会というのがあります。ドーハは小さくて1000人くらいです。

駐在員の方とか?

そうですね。私は日本企業に勤めている訳ではないので最初は日本人会の方々と面識がなかったのですが、フライトでドーハにお住まいだというお客様を担当したりして少しずつ知り合っていきました。また弊社には日本人のパイロットも知られている限り10名程いて、皆さんここに来るまでのキャリアが輝かしく本当にかっこいいんです。既にトレーニングを担当されている方もいらして、尊敬する一方です。

優秀なパイロットさんなんですね。

そうなんですよ。それでハワイから今カタールにいらっしゃった方がいて、お宅に同僚とお邪魔したりして。奥様にも可愛がっていただき、今は奥様主催の着物クラブで着付け講師を目指してお勉強しています。ドーハでも日本大使館との共催でイベントがよくあり、その着物ショーのお手伝いをしたりして充実したお休みを過ごしています。

いつか結婚してリタイヤしたあとに、お仕事にできればいいと。

そうですね。世界のどこに移ってもできる仕事、手に職、身一つでできる仕事を増やしていきたいですね。

今までどんなラインを飛んできたんですか?

もう、数えきれないくらいです。上から…ストックホルム、オスロ、ロンドン、マンチェスター、パリ、ブリュッセル、ワルシャワ、マドリード、ビエナ、ブカレスト、ブダペスト、ピサ、ミラノ、ベニス、ローマ、フィレンツェ。ロシアはまだ行ったことないんですけど。あとアフリカもけっこう行きます。

そうなんですか。どんなところへ行くんですか?

ええと、カサブランカと…。

地中海沿岸なんですね。

そうです。キリマンジャロに行きました。タンザニアやケニアのナイロビにも。ラゴスの場合、みんなフル装備で行くんです。韓国人のクルーと「でてくるお水が黄色い」って言って。いいホテルには泊めてくれるんですが、それでもガーゼを持って行ってシャワーのヘッドに…。

濾過?!

自分で濾過して(笑)。飲み水と、歯を磨く用のペットボトルの水を2本くらい持って行って。タオルやシーツも。インドに行くときも持参します。ベッドバグがいたら嫌なので。敷いて寝て。

CAは、自分に向いていると思いますか?

思います!

どんなところが向いていると思うんですか?

あまり傷つかないところ、嫌なことも一晩寝れば忘れるところです(笑)。いただいたコメントに関しては、「ご指摘いただきありがとうございます、すぐに会社の方にレポートいたしまして、ちがうお客様に乗って頂く際には改善できているようにいたします」と返答します。自分は会社の代表として今お客様の目の前にいて、わたしは会社が決めてくれたルールに則ってとにかくやっている、マニュアル通りにやっています、と。大きな会社にいるとやっぱりそうだと思うんですよね。自分で勝手にできることって少なくて、細かいことまで、すべて決まっています。マニュアルは毎日のようにメールでくるんですが、起きたらチェックして、それを勉強してから行くんです。だから自分で勝手にできない、お客様がすっごく怒っても、とりあえずお客様のお話を聞いて、「すべて伝えます」と。その場でできることっていうのは、もう飛んでしまっているからなくって、変わりのものを提案するくらいです。

では、トラブルがあったときに、自分ひとりで抱え込まないところが、CAに向いているところですかね。

そうですね。あと、動き回れるので。ず~っと。
「立ち仕事で大変ですね」と言われますが、わたしは常にエクササイズできる感じで、ずっと健康体…。もちろんすごく不規則な生活してますけど、でも、ぴんぴんしてますね。

イスラーム圏の国に住んで、どうでしたか?

まず、男尊女卑と聞いていたので、女性は弱い立場なのかと思いきや、すっごく…。

フォローされますよね。

そう、そうなんです。なので、危ないという風に思わない…もともと行く前にキリスト教と仏教とイスラム教を読み比べて行こうと思っていて。言っていることは全部一緒ということを理解して、だからそんなに怖がらなくてもいいのかなと思って。それに、カタール、ドバイ、アブダビは…。

国際的な中継地点ですものね。

そうなんです。外国人にもすごく寛容で、けっこうカジュアルな格好…肌を出していても捕まらないんですけど。
でもやっぱり宗教が違っても、みんな同じところで泣くし、同じところで感動するんですよ。以前はCMなどで「みんな同じ人間」「ワンワールド」と言われても「綺麗ごと」って思っていて。実際自分が行ってみて、宗教が違うけれど、分かり合えない部分があるかもしれないけれど、それは当たり前。私はたまたま日本というアジアの島国で生まれ育っただけ…もう、なんか、関係ないって思っています。

宗教を意識することなく、人と人との関係という域に達しているわけですね。

お店にいっても、譲ってくれますしね。日本人と行って、オーダーを待ってたら、アバヤの真っ黒い(目元を示しながら)ここしか出ていない女性2人が、”You sit here”と声をかけてくれて、相席。なんかいろいろ勘違いしてたなって、思いましたね。

藤への受験を考えている保護者に対してメッセージをお願いします。

今の時代、女子校というのはけっこう悩む選択だと思うんです。わたしが入学した15年前でさえ、父が反対しました。「男性と肩を並べて働いていくように日本の政府も動いているのに」って。でもいま、自分ではそんな風に思わないんですが、人から「優美だね」って言われることがあります(笑)。心穏やかにゆとりを持って過ごして、藤のお友達と、先生方の姿をみて、しなやかさを学べたかなと思うので。今働いている卒業生を見ても、あんなに元気いっぱいだった子が、とても美しい言葉を話していて。外に出ると違いがわかるんです。やっと。やるときに、ちゃんとやるんですね。正解を見ているから。こうあるべきっていう姿を先生方がやってくれるので。そのベースをつくることができる場所だな、と思います。


撮影場所:藤女子大学
インタビュアー・ライター/新山 晃子
カメラ/中村 祐弘
編集/松永 大輔