進路について OGの活躍
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遠藤陶子さん 第3話トップ
第3話

透析室の朝はアナウンスと称した
マイクパフォーマンスではじまる

2015年、実家で医業に「腰をすえる」ことを決意した遠藤さん。
その2年後には麻雀のプロにもなります。
理事長として、医師として、雀士として、妻として、母として…。
いくつもの”I am…”をもつ彼女の、「今」にせまります。

現在の遠藤さんの医師としての日常を教えてください。

結婚して子どもを持ったことで、両立が大変…というか目標です。第 1 子を2015 年に、第2子を 2019 年の5月に産んだんですけれど、男・男で活発です。
彼らを育てて、かつ法人も維持・発展させて…いま当法人には3つ診療所があるのですけれど。

北 19 条にもありますね。

あと北広島。3つのクリニックを安定して経営するためには「自分がこう考える」という姿勢をしっかり見せなければならないのだと学びました。何事も小手先で動かしてはならない、自分は何を見ているのかということを自問して行動しなければならないと思います。スピリッツを見せて、「だから今これをやろう」という結果や選択を、職員にも、患者さんにも、子どもにも、表現したいと心がけています。言うほどに出来ているかは甚だ自信がないですが。当法人に入職してから一貫して研鑽していると言えることは、手術手技です。技術的なことなので、上達するためには手を動かして考えての繰り返ししかないと思っています。

診療風景1

お父様亡き後のご指導は?

飯田潤一先生という外科の先生に2週に1度来院頂いています。これもまた巡り合いなのですが、数年前に「頼もう!」と直接教えを乞いに飯田先生のいらっしゃった病院に突撃しました。患者さんの血管…透析するためには血液を外に出して体に戻す路がとても大切なんです。これをいかに作るか、だめになったらすぐに対応するか、長期的かつ即時的な対応力を求められるんですよ。父が現役で手術が出来なくなる前に私の技術を、少なくとも自分のなかで納得するレベルにまで高めなければならないという、技術研鑽、まずそれが第一目標でした。いまも飯田先生にご指導頂いて、まだまだ上手くなれる!と思っています(笑)

手術の技術が1番ですか?

患者さんを診る、という意味で日常診療が一番大事です。24 時間 365 日働いてる腎臓がだめになった、週3回、1回4時間の人工透析でまかなおう、っていうのは原理的に無理なことなんですね。だから、患者さんの生活をいかに治療にフィットさせるか、日常生活を治療に寄せていく手助けが必要です。

HPにも、「透析を行わない日に、いかに水分食事管理できるか」って書いてましたね。

それを実現するためには、患者さんに病院を、医師を、信頼してもらわなければならないんです。誤解を恐れずに表現すると、「私の言うことを聞いてもらわなきゃいけない」んです。だからそのためには患者さんひとりひとりに真摯に「あなたがいつ具合悪くなっても、しっかり向き合いますよ」ということを、自分の言葉として、しっかりちゃんと伝えて、なにより心から本当にそう思って診療していかなきゃいけません。

そして患者さん側にも、自分のいまの病状に対して「知的好奇心」を持ってもらえば。

まさしくそれを実現したくて、当院の透析室の朝はアナウンスと称したマイクパフォーマンスで始まります。

どんなことをお話しているんですか?

今の季節だと、「転ばないようにしてください」とか。簡単なことから少し難しいけれど理解してほしいことまでお話します。腎臓が悪いと骨が弱くなるという仕組みがあるんですが、それも出来るだけ伝えたくてお話します。そして生活面では「あなたの今の生活で、何を、具体的にすれば転ばないのか」ということを。でも対策は患者さんひとりひとり違うので、アナウンスのあとの回診で杖を持った方がいい、出歩かない、階段を変えちゃう、手すりをつけなさい、とにかく気を付けて歩く、気を付けてって何?小幅に歩くことですよ、なんてことまで細かくお話したりします。あとは水分管理や食事管理です。「気を付けなさい」とだけ言っても真には伝わりません。だから、この手に乗るくらいの果物しか食べちゃダメよ、こぼれおちる量は食べちゃダメ。…とか、どうやったら患者さんにわかりやすく伝えられるかの材料を日常生活でも常に探して、よさそうなのを思いついたり見つけたら頭の中にストックしておくようにしています。

遠藤陶子さん3_1

思考法のひとつが、具体と抽象の行き来なので。先生の「こうしたい」っていう抽象的な目標を、一回具体に変えて、それがまた抽象に巡っていく…。

まさにそれをやっています。自分のなかのモヤモヤ~とした「こうして欲しい」を、具体化して言葉をくっつけて、患者さんに渡す。ラジオで啓蒙活動を始めたのもその延長線上にあります。

ラジオは、先生が始めようと思ったんですか?

実はラジオは、藤の人脈からのお話なんです。
藤の…小沼三穂という元お天気お姉さんから話を頂きました。彼女とは5-6 年生で同じ「5組」で、たい焼き屋も一緒にやった仲間です。小沼さんの夫君がSTVのプロデューサーなんです。「こんな話あるけど、どう?」って。中高の私を知る彼女は「伝えたいことが沢山ある、そして伝える力がある陶子は継続的な番組を持つのがいい」と勧めてくれました。啓蒙活動と捉えてはいますが、患者さん、これから透析に入るやもしれぬ人、患者さんのご家族、ひいては健常な万人にとっても「病気を知って自分と家族を守る」というアイデアをわかりやすく広めたいと思っています。
そしてスタジオでご一緒しているアシスタントの山本浩子さんが、なんとまた藤出身なんです。

山本さんは、後輩ですか?

そうです。6歳下なので、同じ時にはいなかった。私が卒業すると同時に彼女が入学したはずです。

その場で、「あ~!」となったわけですか。

山本さんの方から「私藤なんです」って教えてくださって。そうすると色んな社交辞令や導入の会話がいらなくなるんですよ。「あ~!じゃあ、はじめよっか」という感じです。社会に出てから藤の出身者と仕事する心地よさですよね。

ベースが一緒ですからね。みなさん、穏やかでマイペースで、愛されて生きている(笑)

だから、すごくやりやすいんですよね。

伝えたいことを伝えられた回の内容を教えてください。

「透析療法の真髄は非透析日にあり」という回でしょうか。透析に行く日より、透析のない日の過ごし方こそが大事というアイデアです。透析って、弱った腎臓が出来なかった仕事をすべてチャラにしてくれるわけじゃないんですね。日常自分のあり方に自分自身で介入することこそが治療なんだよ、ってことを伝えたかった回があって。そこに、思いは一番入っているかもしれないです(笑)

腎臓機能が低下してしまう要因というのは…生活習慣?遺伝?

要因は一つに限定されず、様々な背景が腎機能の低下に関与します。代表的な病気は糖尿病ですが、同じ生活をしていても、腎臓が悪くなる人とならない人がいます。自分の腎臓が弱って十分働けなくなり、その働きをおおむね代替するのが透析という手段なのですが、その入り口に至る道は様々ですよ、ということです。

なるほど。

ですので、透析になった人はみんな自分のせい、というような考え方は違うし、誰も幸福にならない誤解ですね。

ある病気を抱えているなかで透析が必要になった人がいる、ということなんですね。だからこそ、ジェネラリストである必要があるわけですね。

そうです。全身疾患といわれる膠原病の臨床を研究をバックボーンに持っていて良かったと思っています。

先生の1日を教えていただいてよろしいですか?

朝は「すこやか MAMA Smile サポート」さんから、家事育児支援のサポーターさんに来ていただきます。ママさん医師の就労支援も考えていて、子育て世代で助け合いながらワークシェアしていきたいと考えてるんです。子供が熱を出したから急に休むとか、「申し訳ない」じゃなくて「お互い様」という気持ちで働いた方が、医師としても親としても心がすこやかなはずです。

サポーターさんの存在、ありがたいですね。

なので、起きた瞬間から次男(0歳)を自宅内で託児しています。4歳の長男は保育園です。
出勤したら、朝のメールチェックと返信、事務室や透析室や院内に顔を出して声をかけてまわります。透析室では、患者さんが一斉に透析を始めます。9:30 には先程お話しした「アナウンス」をします。毎回硬い話ばかりだとつまらないので、結構くだらない話や息子の話なんかもすることがあります。その後、回診を始めます。

診療風景2

どれくらいの人数でしょうか?

私が普段身をおく新札幌の施設で 160 人くらいですね。透析は2日に1回は顔を合わせるので、毎日の回診といっても「一昨日ぶり~」なんですけど、「何かあれば声をかけてほしい」と思って出来るだけ顔を合わせるようにはしています。

いないんじゃないですか、そんな院長先生。素晴らしいですね。

いえ。私だけでなく、当院の医師は患者さんへのちょっとした声かけを皆とても大切にしてくれています。回診のあとに外来や会議なんかが入って、午前の部の透析の流れが落ち着くのは午後2時くらいです。そこで一回家に帰ります。家に帰ってサポーターさんから次男をうけとって授乳をします。2時間ばかりお世話して、午後の透析がある月水金は 16 時 30 分に再出勤します。

火・木は?

午後の透析がないので、ラジオの収録だったり、会議だったり、手術なんかもそこに入ることが多いです。

麻雀はいつやるんですか?

普段はできません(笑)。休日の試合に極力参加するようにしています。
私は普段の生活や仕事にどれだけ真剣に向き合うかも麻雀の鍛錬だと考えていて。麻雀には良くも悪くも自分が出ます。人によるでしょうけれど、私の場合は麻雀だけずっとやっていて強くなるわけじゃないと思っています。「いかに自分が一生懸命になれるものを見つけるか、それを突き詰めて、ものごとの理(ことわり)に近づくことができるか」という観点に立てば、医学も麻雀も、子育ても、すべて自己鍛錬ですね。…というようなことを麻雀を打ちながら自分と対話しています。その鍛錬のためにプロになりました。自分にはどうしようもないことに向き合った時に、どう対応する人間なのかを知る。自分の弱さを知る。どう逃げるのか。逃げないで立ち向かうことが必ずしも勝ちではないのでね。ともすると「当たって砕けろ」みたいなのがいいような気がする時もあるんですけど、実はそうじゃなくって。

孫子の『兵法』も、戦争回避が基本なんですよね。

そういえば、医学についても父が似たことを言っていたのを思い出しました。
「すごく忙しくしている医者は腕が悪い。戦いに至る前に兆しを見つけて摘み取りなさい。おおごとになる前に手を打つから戦にならないんだよ。」って。
実は毎日の回診はそのためにしています。「何か変だ」という抽象的な兆しに気づくことは多々ありますし、その時点で手を打てればと。

突然大病になったのではなく、実は積み重ねがあって、それを見直せば、ちょっとした炎症で済んだかもしれないわけですね。

そうなんです。透析患者さんは感染症のコントロールもすごく大切なので、「感染しない」ことが大事です。だからこうやって…(ポケットから取り出す)スタッフ全員に「ここに消毒薬入れなさい」って。医療者が何かあるごとに手を消毒することによって、患者さんが守られるんですよ。

病院の玄関に置いてある消毒液、足で踏む仕様ですよね。あれは特注なんですか?

いえ、手術室などで使うものですが、玄関が外から持ち込まれる病原体の第1の関門なので水際防御の意味です。でもこういう細かい対策一つ一つを自分で指示してしまうのは良くないと思っていて。出来るだけ大筋を伝えて皆に自分で考えてもらうようにしなければ…というのが今の自分の課題です。あんまりしつこくならないで、スピリッツを伝えて、一緒に同じものをみてくれれば同じところを歩いてくれるはずだ、って思って信じて指導する。

食事療法が大事だって…元シェフの方がこちらにいらっしゃるんですよね?

ホテルのシェフですね。

HPを見ると、器も磁器ですか?

そうなんです。器は原則的に栄養部長である母が選んでいます。ファミリービジネスです。この応接室、実はその母と経営企画部長である弟がコーディネートしてます。
透析室や建物内部のしつらえにも少々こだわりがあります。患者さんは週3回透析に当院に来なければなりません。嫌になって然るべきところを、少しでも心の清涼剤がどこかにあればいい。目に入る景色のどこかに、患者さんの心の癒しができるなら、もしくはストレスを軽減できるなら、それやらない手はないでしょ、というのが母の考え方です。建物を建てる時には母が図面からその観点で検討するので、彼女の工夫は3院の至る所にありますね。

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2階エレベータ前の吹き抜け

2階だけ、エレベータが開いた瞬間、雰囲気が違いますもんね。透析室へむかう通路が、ちょっとアートな空間に仕上がっています。

そうなんです。ギャラリーとか、吹き抜けにするとか。

しょっちゅう通らざるをえない通路だからこそ、豊かな気持ちになるような工夫がなされていますよね。

両親の考え方です。

ちなみに、食事療法の本の表紙を描かれたのは…。

あ、おかざき真理さんです。

ですよね…!あの表紙の絵のタッチ…!

お友達なんです。栄養療法のスピリッツを表現していただきました。医師と調理師、栄養士がスクラムを組んでいるような。透析はチーム医療ですから。

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息子の通う保育園がみえる2階廊下

最後に、小学生の保護者の方に向けてメッセージをお願いします。

藤の教育は、子どもの心を強くしてくれると思います。私は藤で養われた根拠なき自信が武器でしたが、愛されて育つことで立ち上がる強さも与えてもらいました。愛された体験というのは心の鎧みたいなもので、6年間でしっかり強い女の子が育まれます。これから先の世の中、女性の社会参画は今よりももっと「当たり前」となります。これまでの女性が開墾した道を、臆することなく自信を持って力強く歩けること、それがさらなる飛躍に繫るはずです。藤の豊かな環境のもと、生徒たちは「自分はこれだ」という強みを6年かけて探すことが出来ます。


撮影場所:医療法人社団H・N・メディック
インタビュアー・ライター/新山 晃子
カメラ/中村 祐弘
編集/高橋 巧