いつか自分で生きていかなきゃいけない時のために
仕事ってある
医療業界から、動物業界へ転身した武田さん。
学生のこと、学校のこと、そして、業界の未来。
専門学校の学校長として、様々なことを心にかけます。
彼女の現在、そして今後の展望をうかがいました…。
復帰後は、学校長のような立場になったのですか?
やってましたね。
学校経営をしながら、トリミングの技術も教えるのですか?
そのへんのところは、若いころは教えていたんですけど、私、実際、トリマーとして現場で仕事をしたことがないんですよ。
お客様のペットを預かって料金をいただいて…という経験がないんですね。
そうなんですよ。実務経験者かっていうと…トリマーとしての実務経験者ではないんですよ。
技術はあるけれど。
そうなんですよ。微妙なところなんですよ。教えることはできますけれど、自分の中では、一線に出てるわけではないんですよ。それならばきちっとプロの方を雇って、その方たちに教えていただいたほうが。ただ、自分もわかっているので、「それはおかしい」とか、「こうしてほしい」というのは、自分がわかっているからこそ言えるんであって。それがわからなければ、全部お任せですよね。
適正飼育と終生飼育ということをHP で書いている学校って、札幌ではここくらいでは?
そうですよ。
「資格が取れます」はどこも書いているけれど「終生飼育」までは…。
書いてないです。わたし、なんていうのかな、みんな犬が好きじゃないですか。
だから、学校にただ犬がいっぱいいれば、ただ「かわいいからこの学校来たい」…。全然そうじゃない!教育ってそういうところにあるんではなく。
この学校の HP には、「誰かのためにつくす」って書いてありました。
そうなんです。誰かのためにやる仕事。でも、優先しちゃうのは「かわいい」、これが優先しちゃうと、その勢いで。それが私(笑)、若いころの(笑)。「いいな~、犬好きだし~」。
専門学校になった後、具体的にはどういう風に変わったんでしょうか?
国からの規制がやっぱり、色んなことがでてきますよね。学則だとか、そういう色んなことをきちっとしなきゃいけないってなったときに、自分の身が締まったというのはありますよね。
規則にのっとって運営をしていかなければいけない。
で、教員もそういう意識になってくれたんですね。ちゃんとしなきゃいけないんだ、専門学校の教員になったんだっていう意識がやはり出てくれたんですよ。
入学してくる人も「学生」になったわけですから、一人前にしてあげなければいけない、と。
そういう面では先生方の意識も変わりましたし、私の意識も。やっぱり何よりも、学校ができすぎちゃって、動物の。目指す方が増えた分、いろんな教育の仕方で、満足な教育を受けられないまま出られる方たち、辞めていく方たちの話を聞いたりだとか。そういうのを聞くと、「そうならないようにしよう」って気持ちはあるけど、その思いだけですごくうちに人が集まってくるのかといったらそんなわけではない。
入って、卒業してみないとわからない。藤と一緒ですね。
そうなんですよ。だから、そこをとにかくコツコツとまじめにやっていくしかないですね。
改めて、先生が目指しているものを教えてください。
私の中では「自立」なんですよ。
すごく、簡単なことじゃないのはわかるんですけど、いつまでもお父さんお母さんが助けてくれるわけではない、いつか自分で生きていかなきゃいけない時のために仕事ってあると思っていて。たまたま動物を介する仕事をして、そのことでお金をいただき、そして自分で自立していく…簡単なことなんですけど、そこを願っているんですよ。
自分の力でお金を稼いで、自分一人でも生きていける、というところまで育てたいんですね。
育てたいです。一度身につけた技術っていうのは、たとえば何年ブランクがあったとしても、もう一回やろうと思ったときに、ゼロではないですから。必ずそこからもう一度チャレンジできる、そして女性であっても、今は結婚されても、お子さん生まれても、お仕事をする、ってなったときに、こんなこと言ったら本当に偉そうかもしれないですけど、私たち(トリマーなど動物関係)の仕事って感謝していただける仕事なんですよね。お金をいただいて、感謝をしていただける仕事って、まあ、いっぱいありますよね。おいしいものいただいたときに、「おいしかったです、ありがとうございます」ってシェフとかに言うのもそうかなって思うんですけど、私たちも、かわいくしてあげたときに、飼い主さんが、お金をくださったときに、「かわいくしてくれてありがとう」とか、(ペットの)躾なんてそうですよね、いろんなトラブルがあったのが、解決されて、ワンちゃんと飼い主さんの関係が良好になったときに、そこにやっぱり「ありがとうございます」っていう感謝の言葉がある、っていうのは、なんていうんですかね、どんなに動物がかわいく仕上がっても、どんなにワンちゃんがいい子になったとしても、動物たちって感謝の言葉を言ってはくれないんですね(笑)。でも、飼い主さんが、感謝の言葉を言ってくださったときに、「ああ、この仕事をしていてよかったな」って思うんですよね。
やりがいのある仕事ですね。
そうなんですよ。それが、仕事のやりがいであって、やりがいがあるから人は続けられるんであって、続けていくからこそ、その仕事によって自分が自立をしていけるっていうものだと私は思っているので。
感謝の言葉が嬉しい、と思えたら、いつまでも続けていけるかもしれません。
みなさん、そうなんです。この仕事、長く続けてらっしゃる方というのは。何が元気づけられるかっていうと、飼い主さんの感謝の言葉なんですね。
やはり、人と人との関係、ということなんですね。
行きつくところは、そこです。コミュニケーション苦手な方いっぱいうちの学校にも入ってくるんですけど、いろんなコミュニケーションの仕方があるので、お客様によっては、私のようにガーガーいうのが苦手な、静かに話したい飼い主さんもいるわけですから。
それぞれの相性もあるわけで、あなたらしくふるまえばいい、と。
相性があるんだから、ええ。ハキハキと元気だから、コミュニケーション力が高いからこの仕事が向いている、とかではなくて、それぞれの個性のなかで、人との関係性をやはり、築けていく、それがこのペットのためになる、という気持ちにつなげていければ。
「かわいい」のその先に行くことができれば、続けていけるんですね。
そうです。
こちらでは、動物看護師コースの方々も、トリマーの資格をとれるんですよね。
とれるんですよ。トリミングの資格は、レベルの差はありますけど、みんなトリミングは取らせてます。
その制度、みなさん感謝しますよね。
本当に好きな子は、どんどんそこからトリミングを続けて、最後は動物病院につとめていたのに、気が付いたら、ペットサロンをご自宅でやってる、という子もいますし。
動物看護師の資格もあるトリマー、心強いですね。
そうなんですよ。お客様がいろんなことを相談してきたときに、そういう、体のこととかにも相談にのってあげられますよね。
複数の資格を取得できるって、いいですよね。
ほんとうにその通りです。国家資格じゃないので、なんでもかんでも、いらないものはいらない。ちゃんと信頼のある資格っていうのは、いっぱい持ってたらいいんですよ。
でもどうも最近の方は、「これいらない」「なんの意味があるの」とか。
自分の専門外や興味のないことになると。
そうなんですよ。目の前にあることで、「いる/いらない」ってやるんですよ。
それはね、本当に私ね、怒りますよね。これを取らせるまで、私たちはあきらめちゃいけない。好きなことやらせてたら、ダメ。取るところまでが、責任だからと。
車いすの介助などは、任意で取得なんですね。でも、取ったらいいですよね。
あれはね~、介護施設なんかに勤めるときに。彼らは卒業してから感謝してくるんですよ。
藤と一緒ですね。いるときは「なんでこんなに厳しいんだ」と。でも卒業したら。
そうなんですよ。あとからですよ。
そして今後は、酪農学園大学の学生も、ここで資格を取得できるんですね。
2020 年度から包括連携協定を締結しました。資格というよりは、お互いに講義・実習に対して人的協力を行うことになりました。
動物看護師コースの学生だけですか?
そうなんですよ。コラボできたのは。
トリミングは、絶対できたほうがいいと思います。特に、老犬ホームとか、お年寄りのワンちゃんは、かわいくとかではなく、健康のためにやっぱり、お風呂っていう感覚ですよね。お風呂に入れてあげるって考えたときに、トリミングの技術、爪切りから、肛門腺の絞りから、ぜんぶできる。
盲導犬協会に見学に行かれるのは、リタイアした盲導犬のトリミングのためですか?
うちはそこまでやらせてもらってなくて、歩行体験とか、本当に見学です。
藤の中1・中2でも、同じことをやっています。待降節の時期に、盲導犬協会へ募金活動をする一環として。
あ、うちも募金しています!
一応、しつけのほうの学科ももっているので、ここから訓練にいく子っていてほしいなって思うんですよ。盲導犬も含め。警察犬も。すべての訓練犬のほうにいってほしいなっていう思いがあって連れていくんですけど。なかなか、盲導犬の訓練士は、狭き門なので。なりたいって方たくさんいるんですけど、実際に夢叶えている方って。
全国に拠点も少ないですよね。
少ない。たまたまタイミングがあって、求人があれば、っていう。それが本当に1年、2年ででるものではないので。
もうひとつの特徴として、修学旅行の実施がありますよね。他の専門学校でもやっていますか?
行きたい子だけ行くっていう風にやっている学校さんはあるみたいなんですけど。
ここは、全員ですよね。
でも私いま、卒業面談してるんですけど、「なにが楽しかった?」って、やっぱり「修学旅行」っていいますね。
学校長としてよかったことって何でしょうか。
やっぱり、卒業生。やっぱりいるうちって結局は怒ってばっかりだとか、なんかもう、「あなた、なにやってんのよ」という話が多いじゃないですか。それがなんかやっぱり、1年で同じような立場になって。後輩ができて、後輩のグチなんかいってると、「去年まであなたがそうだったんだよ」(笑)。自分たちと同じ、社会人としての会話ができるようになって。
それだけ成長して。
「この学校に来てよかった」って。本当か嘘かわかんないですよ(笑)。それでも、言ってくれたら。
本当正直、小さい学校ですから、「もういいかな」って気弱になったんです。本当に去年あたり、もういいかな、と思って、それもあって酪農学園大学さんに足を運んだのもあったんです。自分の自信のなさで。年齢的に弱気になることがあるんですよ。だけど、結果、こういう提携がなされたってのもあるんですけど、やれるだけやって。
でも還暦をこえたら、生まれ変わりですから。
いや~、そうですか。一回ちょっと喝入れなきゃとは思ってるんですよ。じゃああともうしばらく。でも本当に、介在がんばろうと思って。動物介在活動。わんこたち連れて。いまは、デイサービスと入居型のお年寄りの施設行かせていただいてるんですけど、今度いただいているのが、発達障害のお子さんを、学童(保育)みたいな感じでやってらっしゃる、3歳とか。ちょっとそれが未知で、犬を見たら。だから、想像がつかないんですよ。
ワンちゃんによって、症状がほぐれて、協調性がはぐくまれることを期待しているんでしょうか。
そうですね。新しい挑戦なので。そこはちょっと今年。
動物の可能性は無限大ですから。
なんとか伝えたいです。魅力、無限大。
国がもっと介助犬に対して助成金を出してほしいです。本当にまずは盲導犬、次は警察犬。あんなにも必要とされてる人がいっぱいいらっしゃる。
終生飼育や、殺処分にされるペットに対してのご活動もなさっていますよね。
もともとセラピードッグを育成するきっかけになった団体、国際セラピードッグ協会といって、松戸、ありますよね。
千葉県の。
大木トオルさんがやっている。
一番最初のセラピー犬、銅像になってますよね?あの、虐待をうけていたワンちゃん…。
そうです、日本橋に銅像が。チロリちゃんです。ご存じですか、嬉しいです。チロリちゃんが、日本でのセラピードッグ第1号です。
東日本大震災の時に、被災した犬をセラピー犬へ育成する、という活動もやっている団体ですよね。
そうです。レスキューしてきた子たちも何頭か。
私、大木先生と劇的な出会いをしまして。息子が通う中学校に特別講師としていらして。私は仕事があるんで行ったことがなかったんです。でも、たまたま、犬だからっていうので、仕事抜け出して聴きに行ったんですよ。セラピー犬も来てて。もう、感動してしまいまして。涙止まらなくて。私毎回泣くんですけど。大木先生の話。毎回おんなじなんですけど、毎回泣くという。で、先生に、学校の話をすべてして、「先生の力をぜひ貸してほしい」と。セラピードッグを育てるメソッドがうちにはない、ということで、お話をしたところ、先生がうちの教育に共鳴してくださって、なにが一番大きかったところかというと、うちの学校が介護職員初任者研修修了者の資格を取らせてるっていうところに、「この人たちは本気なんだ」ということに気づいてくださって。そこからのお付き合いです。
ペットライフ学科で、セラピードッグの資格を取る勉強ができるんですか?
そうなんですよ。大木先生の協会で取ってる資格とはちょっと違うんですけど、
そこの協会のちょっと下の、ジュニアハンドラー資格っていって、それより一つ上の資格をとりたいとなると、自分の犬を連れて、先生のところに通って取れる資格、銀座にもスクールがあってそこで受けれるらしいんですけど。うちは学生向けなので、ましてや人様のワンちゃんでとる資格なので、ひとつ前の初級編。そっから上へいきたければ、松戸の訓練所に就職する。
大木先生は、こちらへいらっしゃることはありますか?
年に3回くらいかな。ありがたいです。エンターテイナーですからね、あの方になると。学生が真似することはできないですけど。
本物を見ることも大事ですし。
先生がやりたいと思っていることが、その、介在活動ではなく、介在療法なので。
さらに一歩踏み込んで。
治療効果を出そうというところに主眼を持ってるんで。私も新しい施設さんにお話しさせていただくときには、かならずそこをお伝えして、「治療効果を期待してほしいです」と。私たちもそのためにセラピードッグを育てているので。
それじゃなかったらただ抱っこされる犬。
こちらも、「かわいい」の、その先なんですね。
その先のお仕事をするワンちゃんが。
増えればいいですね。この、超高齢社会に。
いや~、ひとつの施設にひとりのワンちゃん。
AI ではなく。
そうですよ、それなのに AI のワンちゃんが。
やっぱり、「モフモフ」の効果というものが。
やっぱりね、置いてほしいと思います。どんなに人が癒されることか。
藤にも置いてほしいです。
ハリネズミがいるじゃないですか。
寝てるんですよいつも…。
夜行性ですからね。
武田さんの野望を教えてください。
学校を大きくしていきたいというか、人がいっぱい入ってきて活気のある、人がいっぱいいればそれだけやれることも大きくなってくるし。うちが教えた子たちがペット業界へ出ていくわけですから。こんなこといっちゃ偉そうかもしれませんが、結果、ペット業界のレベルが上がると私は思っていますから。うちの学校を出た子たちが、ペット業界のレベルを上げるっていうところに、彼らがやっぱり先頭きって、いい業界に、最後まで飼育することもそうですし、しつけもちゃんとすることもそうですし、ちゃんとお手入れ・管理すること、含めて、動物病院も、獣医さんが診療しやすいように、やっぱりきちっとした看護知識、看護倫理をもった子たちが、うちの子たちがいるから、この病院なんか、大きくなったよねとか、ペットショップ、すごい繁栄したよねって。
病院は「患者さんに感謝していただけた」、お店は「お客様増えた」、と。
この専門学校の卒業生を採れば、うちは安泰だっていう風に、思ってもらえるような学校になることが野望かな(笑)。それじゃなかったら、学校やってる意味ないですもん。学校なんで、やっぱり、人を育てられなくなったら学校やってる意味ないじゃないですか。
肝に銘じます。
(笑)。そして、何十年後かに卒業生に「エス・ワンのおかげです」って、テレビでいっていただけたら(笑)、「やった!」みたいな。
エス・ワン動物専門学校、札幌どうぶつ専門学校に名称が変わりましたね。
これからは、「札幌どうぶつ専門学校のおかげです」を目指します。
最後に、在校生へメッセージをお願いします。
どのぐらい私がいたころとくらべて厳しいかわからないんですけど、私、「謙遜・忠実・潔白」って今でも言えるんですよ(笑)。そこがすごいなと思います。あの~…大事なんですよ!謙遜・忠実・潔白は。だって何十年経ってもこの言葉がすらっと出てくる。色んな事忘れるのに。この言葉が出てくるって、すごいなって思います。
あの時先生たちがうるさく言ってくれたことって、言われなくても自分でわかる(ようになる)。言われてやることっていやじゃないですか。言われないで自分で気づいて行動できるっていうことを私は教えてもらえたって思います。できてはいないかもしれないけど、「人の嫌がることはしない」って留めていられる。ちゃんと校則があったからこそ。
撮影場所:札幌どうぶつ専門学校
インタビュアー・ライター/新山 晃子
カメラ/中村 祐弘
編集/高橋 巧